アメリカ・イスラエルがイラン攻撃に踏み切ったのが今年2月28日で、すでに一か月を過ぎた。
このところ米大統領のトランプ氏は日々言説を変えながら世界を翻弄している。
彼は「戦争しない。戦争するのはカマラ・ハリス。平和ならばトランプ」といって大統領選をやり、そして大統領職に就いた。しかし現実にはあちこちで戦争を吹っ掛け続けている。
いよいよ国内でも「トランプは戦争の終わらせ方を議論せず始めたのではないか」と主張し始める人も出てきている。
実際、ホルムズ海峡は彼の眼中にないようだ。中東の原油に依存しない米国にとっては優先事項ではないのだろう。それどころか「日本にやらせろ」と言い出す始末。
先に始まっているウクライナ戦争と比較しながら、このイラン攻撃の行方を考えてみたい。
この週末、リハックがロシア軍事の専門家である小泉悠氏をゲストにロシア・ウクライナ戦争を取り上げた。
そこでアメリカが和平仲介に乗り出したことにも触れている。
小泉氏
「トランプが分かってないなと思ったのは、この戦争を土地の問題として処理しようとしたことです」
「これがもしも土地をめぐる戦争だったら、これは割と真っ当な停戦案だと思うんですよ」
「問題は、プーチンの言う事を素直に聞いていると『土地を欲しい』とは言ってないんですね」
「ベラルーシや冷戦時代のフィンランドみたいな政治的にロシアに逆らわない。軍事的にはロシアを脅かさない。無力な軍事力しか持てない。もちろんNATOやその他には入らないというような国でないとロシアは不安でしょうがないとプーチンはずっと言っている」
「ウクライナが自己決定権を持つ国であることがロシアにとっては脅威である」
「そこでトランプが出てきて土地の話をしてきても、お互いに『そんな話はしてねえ』ってことに多分言われてしまうし、それがここまで停戦合意が空回ってきた大きな原因だ」
「もともとお互いが相反する目標を追求して戦争をやっている。プーチンはウクライナを事実上、独立国ではなくしてしまいたい。ウクライナ側はあくまでも『独立を維持したい』といってやっている」
これ、日本国内でもSNSを中心に勝手な言い合いが開戦当初からあちこちで見られた。
戦争被害が拡大するからウクライナは降伏すべきだなどという主張から、ロシアを刺激して核戦争になったら困る等々、当事者無視の勝手な言い分が飛び交っていた。
今はそれほどSNSで観察していないが、おそらくは当時と大して変わっていないor興味が薄れて言い合いしなくなったかどっちかだろう。
トランプ氏も似たようなもので、彼の価値観で当事者無視の停戦案を勝手におっぴろげ、そしてロシア・ウクライナ両国から困惑を持って受け止められたのだろう。
ウクライナからするといきなり侵攻してきたロシアに妥協して停戦したところで、再びロシアが侵攻するリスクをそのままに合意できるはずがない。
ロシアにしても一方的に編入したドネツク、ルハンスク、ザポリージャ、ヘルソン4州を手放すような形で停戦に応じる理由がない。
結果、2国間で停戦できる可能性が限りなくゼロのまま、5年目に突入している。
同じようなことがアメリカ・イスラエルによるイラン攻撃にも見られる。
トランプ氏は攻撃当初、「4~5週で終わる」としていた。今は攻撃から5週目だが、終わる気配は毛頭ない。
また何をもって戦争終了とみなすかでもアメリカないしイスラエルの意見が異なる。
まずイスラエルはイランのイスラム体制の崩壊、ハメネイ師は殺害したが後継はより強硬な指導者にとって代わられた。終戦の段階にない。
アメリカは核保有の否定だが、これこそ軍事的に排除できるものではない。表面的には核施設を攻撃することは可能だが、研究者や研究データまで軍事で排除することはできない。それこそトランプ氏がいうように「石器時代に戻す」ことができれば可能かもしれないが、そこまでアメリカが戦費を賄えるのかどうか。
そもそもイラン核合意を勝手に離脱したのは第一次トランプ政権だ。先に核放棄のカードを捨てておいて、今になって軍事攻撃に踏み切るのは勝手が過ぎる。
対するイランにしても、現時点で停戦に応じるインセンティブはない。
まず軍事的に他国から政治指導者を暗殺される事態が異常な内政干渉であって、これに対するフォローもなしで停戦できるはずがない。
加えて宣戦布告も安保理決議もなしに先制攻撃をされてしまうと、今度は核保有によって戦争抑止する方が合理的だと主張されても、これを正面切って反論することが難しい。
イラン攻撃については、いわゆる西側諸国も迷走が続いている。
「われわれの戦争ではない」としてフランスをはじめ、欧州各国はアメリカ・イスラエルに支援することを拒否している。具体的には空域や基地の使用を認めない対応をとっている。
だが、ホルムズ海峡をめぐって関係40か国が参加したオンライン会議は2日、「イランに海峡開放を促すために利用できる外交的・経済的選択肢などについて議論した」という。
こうして外交的にはアメリカ・イスラエル側の立場に立つことが鮮明になった。国際法違反の攻撃があったとしても、国益優先で違反国の側に立つ。それが欧州の考え方だ。
アメリカの中間選挙は今年11月。これを見据えてトランプ氏が弱腰になったり強気になったり支離滅裂な反応を繰り返している。
彼は自信にあふれた白人男性像を崩してしまっては政治的に維持できない。それだけに政治的妥協も含めた外交交渉で国際秩序に貢献するという手段を放棄している。
自分たちが戦争の結果でホルムズ海峡封鎖という現実を目の前にしても、「アメリカは自前でやっていく。困っている日本や欧州で勝手に解決しろ」とは横柄にもほどがあるが、こうでもいわないと彼の政治スタンスは守れない。
結局、トランプ氏は誰が見ても明白な敗北が訪れるまで謝罪もしなければ責任を取る気もないのだろう。何が悪いことがあれば政権要職メンバーのせいであり、トランプ自身の問題ではない。
彼は裸の王様だ。誰かが指摘してやらなければならないが、指摘した瞬間、矛先は確実に指摘した者に向く。誰がそんなことをするのか。まず間違っても日本の高市はあり得ない。「世界に平和をもたらせるのは、ドナルド、あなただけだと確信しています」などという政治家に裸の王様などという度胸はない。
いや、発言そのものは事実だ。
暴れまわっているトランプ自身が行動を修正すれば平和が訪れる。
問題は、そんなことが起きる可能性は現時点でゼロだ。
アメリカでは反トランプ抗議デモとなった。掲げるコピーは「No kings(王はいらない)」だ。実はもう「王様は裸だ!」と指摘されているのに等しいが、それでもトランプ氏は戦争を終わらせられずにいる。
そういう意味ではやっぱり世界に平和をもたらせるのはトランプではありえないのだろう。
