きのけんぶろぐ

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思い出の小説「怪盗紳士ルパン」

子どもの頃、どういうわけだか海外文学によく触れていた。

吸血鬼ドラキュラ

ジキル博士とハイド氏

マルタの鷹

Xの悲劇

透明人間

イワンのばか

宝島

等々。

 

怪盗紳士ルパンもその一つで、漢字もろくすっぽ読めないのに相当に早いうちから母親に買ってもらったように思う。おそらく小学校低学年。

10ページほど漢字辞典を引きながら頑張ったが、当然のごとく挫折し、長らく本棚にしまわれていたものを、中学に入る前くらいにもう一度挑戦し、読破したように思う。

だから子ども向けに翻訳されたものだったのだろう。あまりに何度も繰り返し読んだから綴じがくたびれて本がバラバラになったように記憶している。

 

AIに描かせた怪盗紳士ルパン

 

2026年現在、子ども向けとして「怪盗紳士ルパン」を手に取るならば、以下の一冊になるだろうか。

 

www.kaiseisha.co.jp

これによると収録されているのは

・ルパン逮捕される
・獄中のアルセーヌ・ルパン
・ルパンの脱獄
・ふしぎな旅行者
・女王の首飾り
・ハートの7
・アンベール夫人の金庫
・黒真珠
・おそかりしシャーロック・ホームズ

の全9話となっている。

 

だが、私の記憶では4話のみ。タイトルも微妙に違っていて

・逮捕されしアルセーヌ・ルパン

・獄中のルパン

・ルパンの予告脱獄

・ふしぎな旅行者

だったような気がするが、なにしろ手元にないから確かめようもない。

 

ともあれ、最初の話から衝撃的。叙述トリックを使って読者を騙す。

これを小学生の頃に読むんだから、なるほど、今の私がこうなってしまうのも道理といえば道理か。

 

ルパンの予告脱獄も鮮やか。ルパンの技術もさることながら、心理学的なテクニックを使って脱獄するところは予想外。宿敵ガニマール刑事との対決も興味深い。

ふしぎな旅行者はルパンがルパンを追うという話。片方が偽ルパンで、本物ルパンがしてやられるところから始まり、警察の援助も得ながら決着をつけるという話で、わたしが持っていた単行本のトリとしては十分なインパクトがあった。

 

さらにルパン物を多く手に取った。

シャーロック・ホームズとの対決は、当のホームズを知らないうちから読んだから特に興奮もしなかったが、読了後にイギリスの名探偵を読むきっかけを与えてくれた。

日本では「奇岩城」と訳されるが、原題を直訳すると「空洞の針」だったか、あとがきでは「エイギュ・クルーズ」とかなんとか書いてあったような。この話に出てくる青年探偵をしてルパンに「ホームズ以上」と言わせるんだから、モーリス・ルブランも負けず嫌いだなと思った記憶が懐かしい。

怪盗紳士と言いながら、けっこう暴力沙汰も得意で警官の首をへし折る場面もあった。乳母のビクトワールからして、ルパンに心酔して甘やかすから、こんな大泥棒が誕生したんじゃないかと思うほど。

 

ただ、なんだかんだで同作に込められた「無頓着であること」という態度は、今になっても通じるところがあるような気がする。

日本流にいうなら「無行の構え」とでもいうんだろうか。あらゆる変化に直ちに対応できる姿勢とは、結局、素人目には無造作なようでいて、その実、真剣な態度で向き合うことが大事なのだと学んだ。

何かマインドセットを置いていれば特定方向には強くなるが、それ以外で不意を突かれる。結局は普段からよく感じ、よく学び、感度よくしておく態度こそ、もっとも頑健だと理解するに至った。

 

なんだか無性に読み返したいと思う一方、あの子どもの頃の感性で読み直すことは決して不可能だろうという気もする。

私自身があの頃と同じではないし、あの頃に読んだのと同じ本が手元にあるわけでもなく、またお金を払えば手に入るものでもなさそうだ。

それがなんだか無性に寂しい。