少しずつ春闘、賃上げなどの単語がニュースに入ってくるようになってきた。物価高もあってか、大半の人の関心事。自分の懐の話だ。気にならない人の方が珍しい。
このたびのエントリーでは、厚労省「賃金構造基本統計調査 (以下、賃金統計)」から示していく。
平均値はもちろん、値のばらつきまで含めてフォローする。あなたの年収は職種・業種など同一条件下、どのくらいの位置にあるのだろう。一番気になる部分をつかむ手がかりを示していく。
>平均給与額とは「真ん中」イメージよりずっと上位
まずベンチマーク。
年齢、性別、学歴、職種、業種、役職等すべてのデータから求められる平均給与額
330.4千円
わかりやすく言うと33万円。これは残業などを抜いた数字だ。そしていわゆる税込み金額だ。手取りはもっと下がる。そして、これはあくまで平均額。
ちょっとした算数のおさらい。
平均はすべての数を足して、足した数で割ったもの。
たとえば
[31 32 33 34 35]の平均は33だ。
[20 25 28 33 59]の平均も33だ。
どうだろうか。下のグループは平均値が大きい数字から2番目にあるのはわかるだろうか。真ん中の数字は28だ。これを中央値という。数値の塊が平均値からずれている場合、中央値を見た方が「真ん中」のイメージに近くなる。
そして労働統計はまさに平均値より中央値で見た方がイメージしやすい。
少し細かく見ていこう。
ここに100人の月給取りがいる。月給額順に左から右へと並んでもらう。
左から10番目の人が19.1万円。この値を第1・十分位数という。
右から10番目の人が51.2万円。この値を第9・十分位数という。
左からも右からも等距離の人が28.7万円。この値を中央値(※賃金構造基本統計調査においては中位数)という。
同じように下から1/4にある値を第1・四分位数といい、この場合は22.9万円だ。
上から1/4にある値は第3四分位数といい、37.9万円。
この二つの数字を平均値33万円と中央値28.7万円とで比較する。
平均値33万円は第1・四分位数22.9万円との差が10.1万円、第3・四分位数37.9万円との差が4.9万円で、より上位層に近いことが分かる。
中央値28.7万円は第1・四分位数との差が5.8万円、第3・四分位数との差が9.2万円で、下位層に近いとわかる。
これはつまり大半が平均値以下しかもらっておらず、平均値はたくさんもらっている方だとわかる。
テレビでいう平均給与額というのは、平均という言葉が持つ「真ん中」イメージを全然代表しておらず、上位層だと考えて差し支えない。
日本の賃金のバランスは、平均でも上位層に位置しており、大半は平均よりずっと下位層にある。
これが心理統計法だと極端な値は外れ値として処理、分析データには出現しないが労働統計はそういうものではないようだ。高い値をそのままに分析するため、平均額が実感と異なる水準で表出される。

>職種別から見る給与額
続いて職種別の給与額に移る。
賃金統計では管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者、事務従事者、生産工程従事者、サービス職業従事者等11種で分類している。
ここでは管理的職業従事者、事務従事者、サービス職業従事者の3種で比較していく。
平均値、中央値等の値を以下にまとめた。
| 区分 | 平均値 | 下位10% | 第1四分位 | 中央値 | 第3四分位 | 上位10% |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 管理的職業従事者 | 57.1 | 35.6 | 43.3 | 53.2 | 65.9 | 80.7 |
| 事務従事者 | 32.1 | 19.5 | 22.9 | 28.3 | 37.2 | 49.0 |
| サービス職業従事者 | 27.4 | 17.8 | 20.4 | 24.1 | 28.8 | 34.5 |
(単位:万円)
こうして比較すると管理的職業従事者の給料がよさそうだ。ダメだ。責任者はイヤだという声が聞こえてきそうだ。
なるほど、それではサービス職業従事者であったのなら、事務従事者になるのがよさそうだ。責任者ではない。どうだろうか。
たぶん無理だ。
賃金統計には給与額以外にも勤続年数も比較できる。
- 事務従事者 - 12.6年
- サービス職業従事者 - 8.6年
これは平均値で実際のケースはさまざまだとはいえ、10年選手の給与を未経験で獲得できるとは思えない。
逆もまたしかり。帳簿をさわりたくないといって別の職種に転換しようとするのは、たとえば社内移動ならば不可能ではないだろうが、社籍を移す転職となると相当に難しい。
そして日本の雇用慣習だと社内で職種転換しても給与に跳ね返ることは少ない。社籍を移すにしても、若さがない限り未経験者が採用されることはまずない。
ちなみに責任はいくらでも負うから管理職がいいという人、もう少し判断材料を提供しようか。
3職種の超過実労働時間数、いわゆる残業時間だ。
- 管理的職業従事者 - 2時間
- 事務従事者 - 10時間
- サービス職業従事者 - 8時間
「おお、残業時間も少ないのか。これはいい!」と喜んだ読者に冷や水をぶっかけるようで申し訳ない。ここに出てくるのは事業所がカウントし、記載した数字だ。
もう一度言う。
事業所がカウントし、記載した数字だ。
つまり、みなし残業などで事業所がカウントしていなければ「0」になってしまう。
統計調査は取締ではなく統計を目的としたデータ抽出なので、担当部署もわざわざ指摘したりはしない。
統計に出てこない数値だ。
転職を念頭にデータを見るつもりなら、見えないものも見ないといけない。難しい。
>パートタイム賃金は底を競う
最後にパートタイム労働者(賃金統計でいう「短時間労働者」)の賃金をみる。
パートタイム労働者の賃金は時給で示される。
平均は1476円。
これが真ん中だと思ってはいけない。例のごとく中央値等のデータを以下に示す。
第1・十分位数 986円
第1・四分位数 1061円
第3・四分位数 1391円
第9・十分位数 1848円
おわかりだろうか。第3・四分位数に至っても平均以下だ。統計データからは第9・四分位数1848円までしか確認できないが、おそらくこれより上はもっと上だ。
その片鱗が見えるのは「教育,学習支援業」の第9・十分位数5498円。次いで「鉱業,採石業,砂利採取業」の同3046円、「情報通信業」の同2858円、「金融業,保険業」の同2690円、「電気・ガス・熱供給・水道業」2655円などと続く。
これらは時間当たり賃金で見たフルタイム労働者と変わりがない。
逆に低い方になるともう本当に低い。令和6年の最低賃金は全国加重平均1055円。最低は952円。第1・十分位数986円はこれに迫っている。
ちなみに令和6年は全国平均で50円を超える引き上げで、これはニュースにもなったので覚えている読者もいるだろう。
一概にパートタイム労働とくくるのは乱暴だが、ほとんどが最低賃金すれすれの処遇で働いていることは間違いない。これをメインに家計を支えるのは相当に困難だろう。
よく人手不足と聞くが、それは違うだろう。ただ単に賃金不足なだけだ。これでは生活していけないから踏み出せない。
かつては家計の足しとして位置づけられたアルバイトやパート労働も、家計の主といえるフルタイムの方が目減りしていっている現在、そんな補助的な意味合いではなくなってきている。
この記事を書いている間、わたしは何度も何度もこの映画予告編がリフレインしている。
「さあ、払え」
わたしも同じ気分だ。もらいが少ないのはあなたのせいではない。出し渋る日本経済に蔓延する空気、これに従う経営者のせいだ。あなたは自分を責めなくてもいい。ブラピ演じるジャッキー・コーガンが代弁してくれる。